何かと面白くなるとき
電車の中に、大きな声で話しているおじいさんたちがいた。
たぶん、学生時代からの友達で久しぶりに集まって飲み食いした帰りのような雰囲気。懐かしそうに、親しげに。終始マイペースに大声で話をしていた。
その中から
「ケンちゃんは田舎で元気にやってんのかい?」
という言葉が聞こえてきた。
少ししゃがれた、芯のある、高めのよく通る声。
まるで人情もののドラマから持ってきたセリフみたいで、無性に面白かった。
ニヤニヤするのを抑えつつ立ったまま本を読んでいると、開いたページの上に、隣にいた女の子の長い髪がファサッとかかってきた。
何や?と思って顔をあげた。
彼女はその長い髪を、ゴムで結わえるときのような動作で手でまとめては離し、まとめては離しを繰り返しながら連れの女友達と喋っているようだった。それで髪が解放されるたびに私の本に毛先が侵入してくる。
私はなんだかそれも可笑しく思えて、(客観的に見て、なんだかマヌケで平和な光景だなあと)今日は気分が穏やかだなあと気づいた。
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これは友達と夜ご飯を食べてきた帰りの電車。
たくさん喋って笑って、きっと悪いものをたくさん落としてきたから、ちっとも腹が立たなかった。
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「箸が転げても笑う年頃」というけど、私は10代に特別よく笑ったとは思わない。
20代後半の今でも、スイッチが入ると、何でもやたら無性に面白い、という状態になる。
母もそういうところあるから、遺伝かな。