犬の頭をなでたい。
耳の下を両手でわしわしして、
あごから首を左手で触りながら右手でまた頭をなでたい。
最近、こんなことをよく考える。
実家で飼っていた犬が死んでから、
ほんとうに何年も犬に触っていない。
近所で散歩させているところはよく見かけるから、
身近で珍しくもない動物だけど、
よその人の犬を気軽に触りに行けない。
実際に触ってヨシヨシしたいと思ったら、
どこへ行けばいいのかな。
なかでもとくに日本犬が好き。
ぴんと三角に立った耳の間にある、頭の形。そこらへんが愛おしい。
耳の下をくすぐると気持ち良さそうにするのは、どの犬でもそうなのかな。
実家にいた柴犬は、右の耳の下を撫でてやると、
「こんどはこっちよろしく」
と左に顔を向けてきた。
私が座っていると、体を密着させてお座りしてきた。
寄り添い甘えるというよりは、私にもたれつつ脚を崩してくつろいだり、身づくろいをしていた。
(たぶん彼の中で私は友達くらいのレベルだったんだと思う)
*****
私はその時すでに実家を離れていて、
家族で唯一最後のお別れができなかった。
実家の犬にお別れを言うために、
会社に休みもらって帰省するわけにもいかないしね。
と親も私もその時は思った。
死に目に会わなかったからか、
悲しいとかさみしいとは感じても、
正直に言って、いまひとつ悲痛な思いを抱くことがなかった。
我ながら「薄情だなあ」と思っていたけど…。
二度とさわれないって酷だなあ。